新着情報
2023.05.09
昭和62年に法人として設立、産声をあげました宮古地区医師会は今年で34年になります。
この間、多くの方々の絶え間ぬ努力に支えられ宮古地区の医療圏の安定が図られ今日を迎えております。
今後の宮古地区医療圏の課題は、それぞれの医療介護福祉の現場で十分に積み上げられてきた実績を、専門職のみならず一般住民の方にもお互いに共有しあい地区の財産として活用することと考えています。
国は、いつまでも住み慣れた住みよい場所で安定生活を充実させる地域包括ケアシステム構想を実施しています。
そのことは言わずもがなではありますが、そのためにはまず健康が担保されることが必要であり、このことこそが医師会の1つの使命でもあると心得ています。
そのため、今回リリースしますホームページは、健康で安心して宮古島で過ごしていただけるための医療介護福祉関連情報をどなたもが利用していただけるようにいたしましたので、ご活用いただければと思います。多くの方のご利用をお待ちしております。
一般社団法人宮古地区医師会 会長 竹井太(うむやすみゃあす・ん診療所)
新型コロナウイルス情報には「こびなび」もご活用ください
https://covnavi.jp/
新着情報
- 2022.01.17 宮古島内 新型コロナウイルス感染症 検査件数情報を更新いたしました。
宮古地区医師会は宮古島市からの補助金を活用し、新型コロナウイルス抗原検査キットを購入して検査に役立てています。
保健所主導での濃厚接触者に対する「行政検査」は含まれておりません。
累計検査数
累計陽性者数
直近1週間検査数
直近1週間陽性者数
Q&A
▼「新型コロナウイルス感染症」とは?
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新型コロナウイルスは昨年末から世界中に広がったウイルスです。
全世界でおよそ2000万人の感染が確認され、死者は73万人にのぼります。
国内では6月ごろから感染の流行を認めており国内患者数は約5万人、死者は1000人程度です。 宮古島でもクラスターの発生や感染の流行を認めています。
若年者では無症状の人が多い一方で、高齢者や持病のある人を中心に重症化することがわかっています。 ▼新型コロナウイルスはどの世代の人で重症化しますか?
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2020年7月15日時点での「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」が厚生労働省から出ています。
これによると新型コロナウイルスと診断された人のうち4.4%が死亡しています。
死亡率には年齢で大きな違いがあり、40代以下の死亡率は1.0%を下回っており、70代以上で14.2%、80代以上で28.3%となっています。 高齢者の多い沖縄県宮古島では注意が必要です。
ただこの確率は「新型コロナウイルスと診断された人」が分母になっています。 「診断されていない感染者」を加えると、数字はずっと下がるかもしれません。
出典:新型コロナウイルス感染症の国内発生動向
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000649533.pdf ▼新型コロナウイルスの方と濃厚接触しました。私はどうしたら良いですか?
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原則は保健所から電話がかかってくると思います。もし連絡がなければ、自ら保健所に連絡してください。
▼夫(家族)の職場の同僚が新型コロナウイルスにかかりました。私はどうしたら良いですか?
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夫が濃厚接触者であれば、保健所が対応します。濃厚接触者と接触があった方については、検査などは特に必要ありません。 毎日の健康観察のみで良いと思います。
▼新型コロナウイルスの患者様との接触はわかりませんが、熱があります!
私はどうしたら良いですか?-
沖縄県のコールセンター098-866-2129に電話してみてください。
▼症状がないけど、心配なのでPCR検査を受けたいです!
接客業をしており、全職員にPCR検査を受けさせたいのです!-
結論から言うと、まだ無症状の方にPCR検査をしない方が良いと考えられています。
その理由はまだ新型コロナウイルス(以下「コロナ」と略します)にかかっている患者様が少ないため、偽陽性(偽の陽性)の患者様が多く出るためです。
これについては少し詳しく説明します。
PCRという検査は少しのウイルス量でも検出できる優秀な検査ですが、100%ではありません。コロナに感染している人のうち、PCR陽性となるのは60~80%と言われています(これを感度といます)。つまりコロナに感染していても、PCR陰性となるのは20~40%となります。またコロナに感染していない人でPCR陰性となるのは99.9%(これを特異度といいます)と言われています。0.01%の人はコロナに感染していないのにPCRが陽性となります。
ここに人口5万人でコロナに感染している人が100人の島があったとします(感染率は0.2%です)。そしてこの島全員にPCR検査を行なったとします。
この100人というのは検査陽性の人ではなく、実際に感染している人です。本当はこういう数字はわからないものですが、これはわかっていると仮定します。そうすると49900人はコロナにかかっていないことになります。
感度を80%とすると、この100人のうちPCR陽性は80人ということになります。20名はPCR陰性です。
特異度を99.9%とすると、この49900人のうちPCR検査陰性は49850名となり、50名がPCR陽性となります。
ここでPCR検査をする人に視点を移します。PCR検査をする人からすると、陽性者は80+50=130人です。陰性者は49850+20=49870名です。
しかしPCR陽性の130名のうち、本当に感染しているのは80名で、残り50名は感染していませんでした。本当に感染している人の割合は60%程度でした(陽性的中率)。
これはPCR陽性でも、40%は間違っているということになります。検査としてはまだ少し使えそうにありません。実際に感染している人 実際は感染していない人 PCR陽性 80 50 130 PCR陰性 20 49,850 49,870 100 49,900 50,000 ただ、今後コロナが広がってきたら状況は変わります。例えば感染率が10%になれば(感染者5000名です、あまり考えたくありませんが…)、陽性的中率は99%となります。
逆に考えると、熱が出ていたり、コロナ患者様に接触していたりする人(これを事前確率の高い人といいます)に対して検査すると正確に結果が出やすいということになります。
PCRの検査対象を制限しているのはそのためです。 ▼一部の病院で行っている抗体検査って、いったいどういうものですか?
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抗体検査は現在のところ「今感染しているかどうか?」を調べる検査ではありません。昔かかったことがあるか?というのに使います。
そのため医療保険などは使えず、自費の検査になります。 ▼潜伏期間・隔離期間の基準について教えてください
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潜伏期間とは、ウイルスが体に入ってから症状が出るまでの時間を示します。
一般的に新型コロナウイルスの潜伏期間は0~14日と言われています。WHOもこの潜伏期間を推奨しています。
このなかでも多くの方は5~6日で発症しており、95%の方は12.5日までには発症すると言われています。これは中国の文献からきています。
逆に自分に感染の危険がある場合は10~14日の間、他人との接触を避けていれば安心ということになります。
参考文献
Li Q, et al. N Engl J Med 2020;382:1199-1207. ▼新型コロナの手洗いはどうしたらいいの?
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新型コロナウイルスは主に飛沫感染(唾などに含まれているウイルスから感染)することがわかっています。そのため手洗いがとても大事になります。
手を洗う方法には水洗いの他に、セッケン・アルコール(エタノール)・次亜塩素酸水などの様々な消毒液を使って洗う方法がありますが、一体どの方法が良いのでしょうか?
手や指に付着しているウイルスの数は、セッケンやハンドソープで10秒もみ洗いし、流水で15秒すすぐだけで1万分の1になると言われています。
実はセッケンでしっかり手を洗うことができれば、その後にアルコールなどの消毒液を使う必要はないのです。 病院などで使われているアルコールは、水とセッケンを使ってきちんと手を洗う時間や場所がない時に必要になります。
その場合のアルコールはエタノール濃度は濃度70%以上95%以下のものが推奨されています。
出典:厚生労働省 新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html ▼ウイルスが付着したモノはどのように消毒したら良いですか?
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ウイルスを消毒するにはいくつかの方法があります。一般的によく使用される5つの方法を紹介します。
1.熱水
食器や箸などにについたウイルスは、80度の熱水に10分さらすことで死滅させることができます。
<注意事項>
※火傷に注意をして下さい。2.アルコール(濃度70%以上95%以下のエタノール)
濃度70%以上95%以下(※)のエタノールを用いて拭き取ります。
(※) 60%台のエタノールによる消毒でも一定の有効性があると考えられる報告があり、70%以上のエタノールが入手困難な場合には、60%台のエタノールを使用した消毒も差し支えありません
<注意事項>
※アルコール過敏症の人は使用を控えてください。
※引火性があります。空間噴霧は絶対にやめてください。3.次亜塩素酸ナトリウム(ハイター:花王、カネヨブリーチ:カネヨ石鹸、ブリーチ:ミツエイなど)
次亜塩素酸ナトリウム液は、正しく使用すれば、ドアノブや手すり、照明のスイッチ、便座などの殺菌消毒に非常に効果的です。ポイントは、濃度0.05%に薄めた上で使用することです。
<注意事項>
※塩素に過敏な方は使用を控えてください。
※目に入ったり、皮膚についたりしないよう注意してください。
※飲み込んだり、吸い込んだりしないよう注意してください。
※酸性のものと混ぜると塩素ガスが発生して危険です。
※「次亜塩素酸水」とは違います!「次亜塩素酸ナトリウム」を水で薄めただけでは「次亜塩素酸水」にはなりません。
※金属製のものに次亜塩素酸ナトリウムを使用すると、腐食する可能性があるので注意してください。
次亜塩素酸ナトリウム液(希釈)の作り方
1)原液濃度が5〜6%の塩素系漂白剤を用意します
2)500mlペットボトル1本の水に、5ml(ペットボトルのキャップ1杯)の塩素酸系漂白剤を入れます 3)ペーパータオルなどに十分に薬液を含ませて拭いた後、水拭きをします。直接手に触れないようご注意ください4.洗剤(界面活性剤)
テーブル、ドアノブなどには、市販の家庭用洗剤の主成分である「界面活性剤」の一部も有効です。(すべてが有効ではありません)
現在9種類の界面活性剤が新型コロナウイルスに有効であることが確認されています(NITEの検証による)。
新型コロナウイルス に有効とされる界面活性剤が入っている商品のリストのリンクを示します。
https://www.nite.go.jp/data/000114797.pdf
(NITE::独立行政法人 製品評価技術基盤機構 9/7)
<使用方法>
1. 有効な界面活性剤が含まれた家庭用洗剤を選びます。
2. 家具用洗剤の場合、製品記載の使用方法に従ってそのまま使用します。
3. 台所用洗剤の場合、薄めて使用します。
<注意事項>
※目に入らないよう注意してください。
※原則、手指や皮膚に使用しないでください。(手指用の製品は使用できます。)
※飲み込んだり、吸い込んだりしないよう注意してください。
※NITEではこれら9種類の界面活性剤につきノロウイルスなど、他の病原体への効果は検証していません。5.次亜塩素酸水
「次亜塩素酸水」は「次亜塩素酸」とは別物です。
テーブル、ドアノブなどには、2種類の「次亜塩素酸水」も有効とされています。(すべてではありません)
NITEにより有効とされた「次亜塩素酸水」は「35ppm以上の次亜塩素酸水」と「100ppm以上のジクロロイソシアヌル酸ナトリウム」になります。
この時注意することは、①汚れを予め落としておくこと。②次亜塩素酸水をたっぷり使い、消毒したいものの表面をヒタヒタに濡らした後、20秒以上おいてきれいな布やペーパーで拭きとることの2点です。
<注意事項>
※塩素に過敏な方は使用を控えてください。
※目に入ったり、皮膚についたりしないよう注意してください。
※飲み込んだり、吸い込んだりしないよう注意してください。
※酸性のものと混ぜると塩素ガスが発生して危険です。
※不安定な物質のため、冷暗所に保管し、早めに使い切りましょう。
※成分等がわからない製品は、購入を控えましょう。
※「次亜塩素酸ナトリウム」とは違います
参考資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
厚生労働省:新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)
https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html
NITE:新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~
医療者向けコロナ情報
▼PCR検査・抗原検査キットはどのようにつかいますか?
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現在行われている検査の概要は以下の通りです。
検査の対象者
発症日を1日目としますPCR検査
開業医は外注検査抗原検査
(簡易キット)
一般開業医で可能抗原検査
(定量)
宮古病院で可能鼻咽頭
唾液
鼻咽頭
唾液
鼻咽頭
唾液
有症状者
(症状消退者も含む)発症2日目~9日以内
○
○
○
×
○
○
発症日、発症から10日以降
○
×
×
×
○
×
無症状者
○
○
×
×
○
○
▼抗原検査キットを行なった後の流れはどうなりますか?
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▼抗原検査キットは一体どれくらいの精度ですか?
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発症後2日目~9日目においてはPCR検査と9割以上の一致率と考えられています。
厚生労働省のHPに詳しいデータがあります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11915.html
以下に概要を簡単に説明します。
エスプラインSARS-CoV-2の仕様書によると、PCR検査との一致率は1600コピー以上の検体に対して一致率 100%(12/12 例)、 400 コピー以上の検体に対して一致率 93%(14/15 例)としています。(「コピー」とはウイルス量のことです)
川崎市健康安全研究所(n=232)のデータによると発症後2日目から8日目までの検体では9割以上1600コピー以上のウイルス量が認められ、 9日目の検体でも400コピー以上のウイルス量が認められました。
そのため、発症後2日目~9日目においては9割以上の一致率と考えられています。 ▼抗体検査はどのくらいで陽性となりますか?
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沖縄県立中部病院の高山先生が作成した表を示します。
新型コロナウイルス ワクチンについて
▼ワクチンの歴史について
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2月14日、ついに日本でも新型コロナウイルスのワクチンが特例承認されました。
このワクチンについて少しお話をする前に、まずワクチンの歴史について皆さんにお話をしたいと思います。
その昔「天然痘(てんねんとう)」という病気がありました。天然痘は「天然痘ウイルス」によって起こる病気です。もともとは牛やラクダなどの動物に病気を起こすウイルスだったものが、進化してヒトに感染するようになったのではないかと言われています。感染すると高熱とぶつぶつができ、そのぶつぶつはやがて膿を持つようになります。感染するとかなり高い確率で死亡したと言われており、生き残っても体のあちこちに痕(あばた)が残ったり失明したりする恐ろしい病気でした。
天然痘はわかっている限りでは紀元前1100年ごろから存在し、古代エジプトやインド、中国などの都市でたびたび流行をしていたと考えられています。日本にも流行の記録があり、735年〜737年の「天平の疫病」は天然痘であったとされています。当時の日本は混乱に陥り聖武天皇は国家の安定を図るため東大寺盧舎那仏像(奈良の大仏様)を建立しています。
天然痘が最も猛威を奮ったのは1500年ごろのアメリカ大陸です。当時そこに住んでいたアステカ帝国やインカ帝国の人々は天然痘と麻疹(はしか)の免疫を持っていませんでした。ヨーロッパから持ち込まれた天然痘と麻疹はまたたく間に広がり、5000万〜1億人いた当時の人口の90%は死亡したといわれています。これは誰も免疫を持っていない新型コロナウイルスが、今世界中に広がっていることと少し状況が似ています。当時は現在のような高度な医療は存在せず、天然痘はとても死亡率の高い病気でした。
天然痘は1度かかると再びかかることはないとされていました。これはヒトの免疫が「抗体」をつくるためです。そのため天然痘にかかっていた人から、まだ感染していない人に程度の軽い天然痘をうつす「人痘接種」という事が行われていました。しかしこれは実際に感染してしまうため、1~3%死亡するというリスクありました。
1796年、イギリスの医師エドワード・ジェンナーがワクチンを発明しました。ジェンナーはその地方に伝わる「牛の乳に触り牛痘に感染した牛飼いや乳搾りの女性は、天然痘にかからない」という話に注目しました。牛の病気である牛痘はもともと天然痘の親戚だったため、牛痘に対して作られた「抗体」は天然痘にも効くためでした。ワクチン(vaccination)の「vaccca」は雌牛を意味しています。当初は「体から牛が生えてくるのではないか?」という反対意見もあったようですが、天然痘にかからず病気を予防できたためこの技術は瞬く間に広がり、1849年には日本にも伝わっています。
この技術のおかげで先進国においてはではずいぶんと死亡率が低下したようですが、その他の国々では風土病のような形で感染が続いていたようで、1960年代は毎年1000〜1500万人が感染し約200万人が死亡していたようです。その後WHOが主導で天然痘撲滅計画が本格的に始まり、1980年に天然痘は撲滅されました。
これはワクチンが功を奏し、人類が一つの病気を抑え込んだ歴史です。しかし今回の新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは「RNAウイルス」という変異のスピードが速いタイプのウイルスです。また現在の私たちは様々な形で世界と繋がっており、昔と違って世界が「狭くなって」います。そのため新型コロナウイルスはかつてない速度で世界中に広がっています。私たちはこのウイルスに対し今後どのような対策がとれるのでしょうか?
次はかつてないスピードで開発された、新型コロナウイルスのワクチンについて説明します。 ▼新型コロナウイルスワクチンについて
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一度ウイルスに感染すると、私たちの体はその病気に対して「抗体」を獲得することができます。そのため私たちは一度かかったウイルスに感染しにくくなるのです。その「抗体」を病気にかかることなく獲得できたらどうでしょう?この方法を私たちは「ワクチン」と呼びます。
昨年末より新型コロナウイルスに対するワクチンが開発され、日本においても3月から医療者や高齢者への接種が始まろうとしています。けれどたくさんの人たちから「こんなに早くできたワクチンは大丈夫なのか?」「新しい技術が使われていると聞いたが、安全なんだろうか?」といった質問が寄せられます。
今回はそれらの質問に、現時点でわかっている範囲でお答えできたらと思います。
まず「なぜこんなに早くワクチンが完成したか?」についてお答えします。これは昨年5月にアメリカで発令された「ワープ・スピード計画」によります。
そもそもワクチン開発には数回の非常に難しい試験があります。「このワクチンは動物に使っても安全か?」からスタートして、最終的には「ヒトに使った場合、効果はどれくらいで、どんな副作用が起こるのか?」などといったことを調べるのです。ワクチンを開発・販売する会社は、まずその試験にすべて合格する必要があります。そのあとでそのワクチンを量産するための工場や販売経路を用意しなければいけないのです。
ところが「ワープ・スピード計画」では、本来であれば数年はかかるテストをなんと半年程度に短縮しました。それだけではなく、ある程度見込みのあるいくつかのグループに対して「もし開発が失敗しても政府が一定数買い上げるから、テストに合格する前に量産しなさい」と伝え、開発中のワクチンを量産させたのです。これはある種のギャンブルのようなものではなかったのかと思いますが、アメリカはこの計画に日本円にして1兆円以上を投じています。
この計画には「モデルナ」「ファイザー・バイオンテック」「アストラゼネカ・オックスフォード大学」「ジョンソン&ジョンソン・エマージェント」「ノヴァヴァックス・エマージェント」などのグループが参加しています。
このうち「モデルナ」「ファイザー・バイオンテック」のグループは昨年末に試験に合格しました。最終試験において「ファイザー・バイオンテック」のワクチンは4万人(うち2万人は偽薬)近いさまざまな人種・年齢・性別の人たちに接種され、95%の予防効果を認めています。この2つのグループは試験に合格する前からすでに量産を初めていたので、合格と同時にこのワクチンは世界中に広がり、すでに各国で接種が始まっており日本でも来月から接種が始まります。
次にこの2つのワクチンの原理について簡単に説明します。
この2つのグループのワクチンはmRNA(メッセンジャー・アールエヌエー)技術という技術で作られています。
すこしややこしい話になりますが、まず最初にウイルスがヒトの体で増える仕組みについて説明します。ウイルスは自分の設計図が入った「中身」とその周りをくるんでいる「殻」、その「殻」から出ている「足(スパイクタンパク質)」の部品でできています。ウイルスはヒトの細胞に近づくと、まずこの「足」の部分で細胞にくっつき、細胞のなかに入ってきます。細胞にはいると今度はこの「殻」が壊れ、「中身」がでてきます。この「中身」にはウイルスの設計図が入っており、この設計図がヒトの細胞の工場を利用して、勝手に自分のコピーをはじめるのです。
しかし最初にお話したように、ヒトには「免疫」という力があります。一度ウイルスに感染すると、ヒトはウイルスの「殻」と「足」の形を記憶し、これを攻撃する「抗体」を作ります。次にこのウイルスが入ってきたときはこの「抗体」がウイルスを破壊していくのです。
mRNAワクチンの作り方はこうです。まずウイルスの設計図を分析して、そこから「足」の部分の設計図だけを切り取ります。これを人工の「殻」にくるめば完成です。
このワクチンが体の中に取り込まれるとヒトの細胞のなかに入りこみます。そしてヒトの工場を勝手に使って「足」の部品だけを作り出します。これはウイルスと同じように思えますが、ウイルス全体の設計図は入っていないため作られるのは無害な「足」の部品だけです。この「足」の部品はそのうち免疫細胞に取り込まれ、私たちの体はこの「足」に対して「抗体」をつくることができるようになるのです。
このmRNAワクチンの手法は今回初めて使用されましたが、もともとは毎年変化するインフルエンザウイルスのワクチンやがんの治療法として考えられており、10年ほど前から注目されていた技術でした。ウイルスの設計図(遺伝情報)がわかれば、そこからすぐに作り出すことが可能で、今回のような新しいウイルスにはとても早く対応することができます。実際に「モデルナ」という会社はウイルスの遺伝情報を得てから40日程度でワクチンを完成させています。
特に「遺伝子の技術を使ってつくったワクチン」という理由から、「これを打ったら自分の遺伝子に問題がおこるんじゃないか?」などといった質問が多くよせられます。まだ出たばかりのワクチンなので最終的な結論はわからないと思いますが、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のホームページによると、「このウイルスはヒトの細胞の核に入り込まないので、遺伝子に影響することはありません」と記載されています。
ただ私たちの遺伝子というものは、実はもともと変異を起こしやすいものです。この変異が起こることにより、私たちはさまざまな多様性を獲得しているとも言われています。そして実は私たちの遺伝子を調べるとそのうち数%にはウイルスの遺伝子が混ざっていると言われています。私たちの遺伝子はすでにウイルス感染の影響を受けているということになります。
次回は「モデルナ」「ファイザー・バイオンテック」のワクチンの治験における副反応について説明します。
この情報は2021年2月7日現在のものです。新型コロナウイルスのワクチンを受けるかどうかは、受けるメリットとデメリットを天秤にかけて判断する必要があります。 ▼新型コロナウイルスワクチンの具体的な副反応について
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以下の情報はそれぞれのワクチンを作る会社が行った治験の情報です。ワクチンはすでに世界中で接種が始まっており、その情報は随時更新されています。また両者のワクチンは95%の予防効果が認められています。
「ファイザー・バイオンテック」のワクチンについて
このワクチンは対象年齢16歳以上。21日間隔で2回投与します。注射方法は筋肉注射です。卵や防腐剤・ラテックスは混入していません。他のmRNAワクチンでアレルギーを起こした方、1回目の接種でアレルギー反応を起こした方、ポリエチレングリコールにアレルギーがある方は接種しないように説明されています。
ワクチンの副反応は18~55歳までの「若者群」と、「55歳以上の群」に分けて報告されています。 ワクチン接種後に起こる副反応は「局所的な副反応」と「全身性副反応」の2つに分けられています。「局所的な副反応」には、発赤、腫れ、注射部位の痛み、「全身性副反応」には38度以上の発熱、疲労、頭痛、悪寒、嘔吐、下痢、筋肉痛、関節痛があげられています。どちらも割と頻繁に起こっていますが、ほとんどは軽症〜中等度のようです。「全身性副反応」は「55歳以上の群」より「若年群」でより頻繁に起こるようです。
10%以上の確率で発症する副反応を抜粋し表に示します。このうち「偽薬」というのはワクチンが入っていない注射のことです。ワクチンの効果や副作用を調べるときは「二重盲検法」といって、ワクチンが入った注射とワクチンが入っていない注射をランダムで投与します。そのため接種される方も、接種する方もどっちを注射したかわからないようになっています。その結果を表にして、どれくらい効果があるのか?どれくらいの副作用がおこるのか?を検討するわけです。これをみるとワクチンが入っていない注射を受けた人たちの間でも一定の割合で副反応が起こっていることがわかります。
一番頻度が多いのは「注射部の痛み」のようです。「若者群」ではおよそ8割以上で起こっています。 日常生活に支障が出る程度の副反応はワクチン接種者の8.8%で起こっているようです。その頻度は「倦怠感(4.2%)」「頭痛(2.4%)」「筋肉痛(1.8%)」「悪寒(1.7%)」「注射部位の痛み(1.4%)」とされています。重い副反応は1回目の接種より2回目の接種で起こりやすいとされています。
心疾患などの命に関わるような副反応はワクチンを受けた人たちの0.6%で起こりましたが、ワクチンが入っていない注射を受けた人たちの間でも0.5%起こっており、これについてはワクチンとは関係ない(ワクチンを受けなくても一定の頻度で起こる問題)とされています。
「モデルナ」のワクチンについて。
モデルなのワクチンは対象年齢18歳以上。28日間隔で2回投与します。注射方法は筋肉注射です。禁忌事項、副作用はファイザー・バイオンテックのワクチンとほぼ同じようです。
頻度の多い合併症は「注射部の痛み(92.0%)」「倦怠感(70.0%)」「頭痛(64.7%)」「筋肉痛(51.5%)」「関節痛(46.4%)」「悪寒(45.4%)」「吐き気・嘔吐(23.0%)」「腋下の腫れと圧痛(19.8%)」「発熱(15.5%)」「注射部の腫れ(14.7%)」とされています。
これらの情報の詳細はアメリカ疾病予防管理センター(CDC)のHPなどから確認できます。
(https://www.cdc.gov/vaccines/index.html)
(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2035389)
次回は妊婦さんとワクチンについて説明します。全身性副反応:若年層(18歳〜55歳) 1回目の接種 2回目の接種 副反応 ワクチンを投与 偽薬を投与 ワクチンを投与 偽薬を投与 38度以上の発熱 3.7% 0.9% 15.8% 0.5% 疲労 47.4% 33.4% 59.4% 22.8% 頭痛 41.9% 33.7% 51.7% 24.1% 悪寒 14.0% 6.4% 35.1% 3.8% 筋肉痛 21.3% 10.8% 37.3% 8.2% 関節痛 11.0% 6.0% 21.9% 5.2% 全身性副反応:55歳以上 1回目の接種 2回目の接種 副反応 ワクチンを投与 偽薬を投与 ワクチンを投与 偽薬を投与 38度以上の発熱 1.4% 0.4% 10.9% 0.2% 疲労 34.1% 22.6% 50.5% 16.8% 頭痛 25.2% 18.1% 39.0% 13.9% 悪寒 6.3% 3.2% 22.7% 2.8% 筋肉痛 13.9% 8.3% 28.7% 5.3% 関節痛 8.6% 6.1% 18.9% 3.7% 局所の副反応:若年層(18歳〜55歳) 1回目の接種 2回目の接種 副反応 ワクチンを投与 偽薬を投与 ワクチンを投与 偽薬を投与 発赤 4.5% 1.1% 5.9% 0.7% 腫れ 5.8% 0.5% 6.3% 0.2% 痛み 83.1% 14.0% 77.8% 11.7% 局所の副反応:老年層(18歳〜55歳) 1回目の接種 2回目の接種 副反応 ワクチンを投与 偽薬を投与 ワクチンを投与 偽薬を投与 発赤 4.7% 1.1% 7.2% 0.7% 腫れ 6.5% 1.2% 7.5% 0.7% 痛み 71.1% 9.3% 66.1% 7.7% ▼妊婦さんと新型コロナワクチンについて
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妊婦さんが新型コロナウイルスのワクチンを接種するどうかはとても難しい問題です。
このワクチンはできたばかりで、短期的な副作用についてはある程度わかってきましたが、中長期的な副作用についてはまだわかっていないからです。しかし新型コロナウイルスに感染するリスクの高い医療従事者の中には当然妊婦さんもおり、その中にはワクチンを必要とする人たちも出てきます。
これに対しては国によっても意見が分かれています。イギリスやカナダは妊婦さんに対してワクチン接種を推奨していません。これに対しイスラエルは積極的な接種を推奨しており、アメリカは十分に説明を聞いた上で接種をしても良いとしています。今年の初めにアメリカの国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士は「すでに10000人以上の妊婦がワクチンを接種しており、現在のところ問題は認められていない」と発言しています。アメリカは授乳中の女性にも同様に説明をしています。
そもそも妊婦さんは新型コロナウイルスが重症化しやすいのでしょうか?これに対しては「新型コロナウイルスに関するQ &A 6. 妊婦や小児に関すること(令和2年12月24日時点)」に書いてありました。 「妊娠中に新型コロナウイルスに感染しても、基礎疾患を持たない場合その経過は同年代の妊娠していない女性と変わらないとされています。ただし新型コロナウイルスに限らず、妊婦が呼吸器感染症にかかった場合には、妊娠していない時に比べ、特に妊娠後期において重症化するリスクがあります。高年齢での妊娠、肥満、高血圧、糖尿病などが新型コロナウイルス感染症の重症化のリスク因子であるという報告もあり、このような背景を持つ妊婦の方は、特に感染予防に注意してください。」
基礎疾患のある妊婦さんは注意したほうが良さそうです。
新型コロナウイルスワクチンについては、日本産婦人科学会・日本産婦人科医会が今年1月27日に以下のように提言を出しています。
- ワクチンは現時点で妊婦に対する安全性、特に中長期的な副反応、胎児及び出生児への安全性は確立していない
- 流行拡大の現状を踏まえて、妊婦をワクチン接種対象から除外することはしない。接種する場合には長期的な副反応は不明で、胎児及び出生児への安全性は確立していないことを接種前に十分に説明する。同意を得た上で接種し、その後30分は院内の経過観察が必要である。器官形成期(妊娠12週まで)はワクチン接種を避ける。母児管理のできる産婦人科医院施設等で接種をうけ、なるべく接種前と後にエコー検査などで胎児心拍を確認する。
- 感染リスクが高い医療従事者、重症化リスクがある肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している方はワクチン接種を考慮する。
- 妊婦のパートナーは家庭での感染を防ぐために、ワクチン接種を考慮する。
- 妊娠を希望される女性は、可能であれば妊娠する前に接種を受けるようにする(生ワクチンではないので接種後長期の避妊は必要ない)
ワクチン接種を心配される妊婦さんも多いと思います。最近の報告では妊婦さんのほとんどは家庭内で感染していることがわかっています。まずは周囲の人たちがワクチンを接種し感染流行を防いでいくことも大事なことかと考えます。